神秘体験

 15, 2015 05:33
ふつうのオバちゃんが
神さま?に諭された日 σ(◎◎;)



ある日、鹿児島の顧客から電話が入った。
数か月で、友人のようになった須藤だった。

「風ちゃん、遊びにこんね」 
開口一番、彼女はいつになく興奮した調子で言った。

「えっ! 鹿児島まで?」
「何が驚くことがあるもんね。飛行機ならひとっ飛びじゃなかね。
風ちゃんを連れて行きたい温泉があると。
あんた、働くばかりが能じゃなかとよ。
たまには頭ん中、洗濯ばせんね」 

内心ドキッとした。
数日前から、ぶらりと旅行でもしたいと思っていたのだ。

いつもなら、商品の使用状況や雑談が先行するのだが、
よほどの意図があるのか誘いに力が入っていた。

「ほんま、行こうかな、須藤ちゃんの顔見に……。
顧客とアドバイザーの関係になって3年にもなんのに、
お互い、顔、知らんもんねぇ……。
よっしゃ、行くわ! 決めた」 

「あれ、まぁ~ それこそ風ちゃん。嬉しかねぇ。 
温泉三昧して、いっぱい話そうね」

そういうと、須藤は商品にも触れずに電話を切った。

ワクワクした。
須藤はソウルメイトかもしれない。



鹿児島の空は快晴だった。
「まぁ、まぁ、何日も降り続けた灰が止んで、
桜島が歓迎しとらっしゃる。風ちゃんは不思議な人だが……」

ハンドルを握りながら須藤が言った。
写真より老けて見えたが、笑うたびに見える歯並びの美しさが、
彼女の心の在り方を映していた。 

「またまた、うまいこといって、憎いねぇ。
そんな言い回しされたら、気色悪~い……」

「ほんなこつよ!たまげたぁ……桜島は人を見るけんね。」

冗談とも本気ともとれる飄々とした言い草は、
須藤のたまらない魅力のひとつだ。
たわいもない世間話の中で核心を突き、
こちらが真剣になると肩透かしをくわされる面白い顧客で、
彼女となら営業の裏話さえも楽しむことができた。

「ヘへぇ、3日ほどたってから言うて。
そやないと嵐の前の静けさ、ちゅうこともあるし。
へんな奴が来た思て、大噴火するかもしれんし…」 

「ヘ、ヘーイ。風ちゃんのエネルギーならあり得るかも……」

須藤は同類のような気がした。


雄大な桜島を背景に、
私たちは錦港湾に面した浜辺の露天風呂を楽しんでいた。

風呂の奥は、榕樹の木の巨大な磐根がせり出し、
洞窟の入り口のような空洞を形作っていた。
洞窟の壁側は磐根の台座のように磨き抜かれ、
その所々に弁財天や十六童子をはじめ、商売、長寿、
愛情などを司る神々が鎮座していた。
神秘的だったが、日本特有の宗教色を放っているためか、
おどろおどろしくさえあった。

そこは神聖な場所のようで、
浴衣を着て入浴することがルールになっていた。
といっても、露店風呂は貸し切り状態だった。


静寂な時が流れ、
打ち寄せる小波が子守唄のように心に響いていた。

沈黙を破るように、一人の男が須藤に声をかけた。
私に会釈して須藤と親しげに話す様子から、
温泉を勧めてくれた鎌谷だと直感した。

教師だった鎌谷は、思うところあって仏門に入り、
派遣僧侶として観世音菩薩を奉るホテルの研修室に勤務しているらしい。
修行僧時代の生計手段として、電気工事店を営む須藤が、
鎌谷に経理を任せてからの縁だと聞かされていた。


よほど久しぶりなのか、二人は長い間小声で話し込んでいた。

私は彼らから離れ、
風呂の中ほどにある『瞑想の岩』に登って座禅を組んだ。
気を利かすつもりだったのだ。
気配を察した須藤が振り向いたが、
私は瞑想に耽る振りをした。


閉じた目の中は真赤に染まっていた。
その、純粋で鮮やかな原色に心を奪われていると、
視界はオレンジから黄色に変わった。

さらに黄色は薄緑から鮮やかなブルーに変わり、
視界は濃い紫色で覆われた。

その瞬間、畏れをなして目を見開いた。
紫は『第三の目』といわれるチャクラの色だったからだ。

目前には話し込む須藤と鎌田の姿があり、
白くたなびく雲の間から見える青空と、
開聞岳に続く錦江湾の紺碧の海が横たわっているのが見えた。


ふと、このひとときが仕組まれているプロセスの一環に思えた。
須藤からの突然の誘い、それも仏門に生きる人を介して風呂を勧められ、
その風呂が貸切だったばかりか、
友は世間話に夢中になっていたのだから……。

再び目を閉じた。
すると、またしても視界がチャクラの色に覆い尽くされた。
尾底骨の先端に宿るチャクラの赤に始まり、
オレンジ、黄色、緑から青、そして究極の紫へと。
それらは微妙に濃淡を変えながら、
留まることなく変化を繰り返していた。

心は空っぽだった。
流れ落ちる水の音、
打ち寄せる波のざわめき、
かすかに頬を撫でる風を感じ、
彼女達の話し声が聞こえているにも関わらず、それはどこか、
遠いところで聞いているような静寂さに満ちた世界だった。


「あらら……風ちゃん、どうしたん?」 

その声で我に返ると、二人の目が真っ直ぐに私を見ていた。

「えっ……、なんで? 何んかあったん」 

「あんた、すごいオーラだったよお、びっくりした」 

須藤が目を丸くして言った。

驚いたのは、私の方だった。
遠く…下のほうから聞こえていた彼女の声が、
突然、目の前で聞こえたことにも増して、
彼女に人のオーラが見えるなど想像もしていなかった。 

「えっ、オーラ…私に? 須藤ちゃん、見たん?……羨ましい」

照れくささを隠すように、さっさと瞑想の岩から降りた。
なにかしら昂揚感に足が震えた。

「どうでしょう、瞑想室が空いてますし、
本格的に瞑想されてみては…」 

鎌田が言った。


企業の研修用プログラムの一環として利用されるという瞑想室は、
ホテルの奥まった所にあった。

そこに至る通路には、
温泉名の由来となった龍神にまつわる伝承記事や、
護摩法要の際に現れるという、
菩薩らしき炎の写真が何枚も展示されていた。


すでに雨戸の閉まった瞑想室で鎌田が待っていた。
そこは等身大の観世音菩薩像が安置された百畳ほどの和室で、
蝋燭の炎だけが、クーラーの涼風によって漂っていた。

私たちは、菩薩像の視線が注がれる辺りに並んで座った。
まずは観音様に合掌して、鎌田に言われるまま半眼で蝋燭の炎を見つめた
瞑想へ誘う音楽と女性の語りが流れはじめ、鎌田が忍び足で部屋を出て行った。


私はいつまでも落ち着けなかった。
菩薩像に当たって跳ね返っているのか、
エアコンの風が蝋燭の炎を揺らし続けていたからだ。
(いいや、目を閉じてしまおう) そう思った。

そして、すぐに自らを疑った。
真っ暗のはずの視界の中に、色彩の世界が広がっていったのだ。
しかも露天風呂のそれと同様、色は順序を経て紫色に変わった。


すると奇妙なことが起きた。
視界の左上方から白い……。
といっても、蛍光灯よりは淡い白さの丸い光が降りてきて、
私の頭に光の粒子を放射し始めたのだ。
(とんでもない!)
とっさに目を見開いていた。

暗闇の中に出現した鮮やかなチャクラの色はまだしも、
七色目の白は神の光だと知っていた。
その領域に至った畏れと猜疑心から、
目を開けて確かめようとしたのだ。
やはり蝋燭の炎は揺れ動き、
傍に正座して瞑想する須藤がいた。

もしや、と思った雨戸は固く閉ざされ、
一筋の光さえ侵入していなかった。

悲しくなった。

内なる自分を知りたいと、どれほど切望したことか。
あの光は大いなる存在に違いないのだ。
それなのに、まさにその扉が開かれようとした瞬間にさえ、
猜疑心を捨てきれなかった。
なんという愚かさなのか。
後悔で胸が締めつけられた。
(疑ったりして……ごめんなさい。
応えて下さって感謝します) 

心の底から詫びながら、私は再びその光を求めた。


紫色の視界に、放射状の光の粒子が降り注いでいた。
ああ、神さま……!
そう感じとった瞬間、さらに奇妙な事が起きた。

私は視界を抜け、永遠とも思える空間に浮かんでいた。
しかも、肉体は赤ん坊だった。

四つん這いになった私は、
巨大な白い光に手を伸ばしながら泣いていた。
懐かしさに震え、そこに帰りたいと訴えていたのだ。 

「知っている……」 

交差するように光が応えた。
心は軽くなったが、それでも現世の矛盾や憂いを愚痴り続けた。 

「知っている……全ては、あなたが選んだ」

2度目のメッセージと同時に、その記憶が全身を貫いた。
脳ではなく、体の細胞のひとつひとつが覚睡したかのように…。

光の世界から今生に転生することを選択したのは、
魂レベルの自分自身だった。


慈愛に満ちた光の粒子が全細胞に浸透していった。
光は、愛(癒し)のエネルギーそのものだった。
想いの全てが浄化され、すぐさま魂としての弱さを自覚した。

迷子が家に戻る道順を思い出しでもしたかのように、
しゃくりあげながら涙を拭った。 

「もう一度、やり直します。ありがとう……」

そういって光に背を向けたとき、
肉体の耳に雨戸を開け放つ音が聞こえた。
夏の陽射しが部屋中に溢れ、
泣きぬれた顔が陽光に曝された。

「何かあったようですね」 

鎌田が訊ねた。

「えぇ、光を見ました。それに……」 

呆然としていた。
理性がエンストしたようで上手く話せなかった。

「良かったですねぇ、それは観音様の光ですよ」

答え終わらないうちに、鎌田が断言するように言った。

観音様かどうかはわからなかった。
しかし、それ以上説明しようとは思わなかった。

仏教という、限られた世界観で説明できるような現象ではなく、
その光は大いなる全ての源だった。

どうしても擬人化するのであれば、
それはエホバやキリストであり、
仏陀であり、アッラーなのだろうが、
泣きじゃくっていた赤子の私には、
親であり故郷だった。

といっても、現世的な故郷感ではない。
絶対的で崇高な愛の源。
全ての魂が記憶する場所だと感じていたのだ。

そこで光のシャワーを浴びると至福感に包まれ、
魂がリセットされた。

ネガティブな感情は洗い流され、
過去に味わった善悪、不満、批評判断の全てが、
ただ、愛しいと感じた。


嬉しいことに、
この体験には二人の証人がいた。
人のオーラが見える友と、
瞑想ガイドの鎌田さん……。

“人は、自分の見たいものを見る”……。
インドの哲学者の言葉だ。
仏教に傾倒している鎌田さんは
“観音様の光”だと言い、
観音とは、釈迦が没した後に
人々が創り上げた菩薩だと知っている私は、
“大いなる光”だと感じたものだ。

まぁ……。
観音様でも、キリストでも、
なんでもいいか。
私が見たのは、
蛍光灯より少し明るいくらいの光で、
ず~と見つめていられた。

光の次元といっても、
15次元くらいまであるらしいし、
あまりに高次元なら、まぶしくて
見つめられないって、知ってるし……。




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