天使のリング

 15, 2015 17:07
天然色の超リアルな夢 (((o(*゚▽゚*)o)))


お礼奉公のつもりで通販会社の所長職につき、
またたく間に3年が過ぎた。

会社は急成長を遂げ、本社ビルの建設も夢ではなくなっていたが、
私は、自らの未来像に確信が持てないまま迷っていた。

下町のターミナル駅から徒歩で3分という立地ではあったが、
自宅マンションでの開業は、待合や、施術スペースが足らない。
といって、市内で店舗を借りて、成り立つような職種ではない。
マンションを売却して田舎にでも移り住まないかぎり、
鍼灸院開業の夢は実現しそうにもなかったからだ。


問題は他にもあった。
離婚後に巡り合った男との10数年に渡る関係を断ち切るべきか。
40年近く連れ添った妻から奪う結果になったとしても、
自分たちの本心を貫くべきだろうか……。
情愛と、罪の意識が交差し、想いは混沌とするばかりだった。

夢を叶えるためには持続性のある強い願望と、
そのような行動が肝心にも拘わらず、
自らが選択した未来像に、確信が持てなかったのだ。

仕方なく価値観を見直し、条件を洗い直してみた。
しかし、夢の形に変わりはなかった。

そもそも成否を分かつ意識とは何なのか。
夢の推進力となる“意識のあり様”を求めて、
私は、その筋の専門書を読み漁った。


意識とは、周波数のような波動であり、
素粒子よりもさらに細かい幽子だと唱える科学者もいる。
幽子という聞きなれない科学用語は、
幽体離脱や、幽霊などの幽を宛がったもので、
西洋ならメンタル体、東洋では気や念と表現される霊魂を指す。

それらはエネルギーで、波動の細かさや粗さ、色彩などの質を持ち、
個々の観念や、在り方を示すサインになっているらしい。

私は、毎夜のように意識の進化を図っていた。
ヨガの呼吸法を取り入れ、瞑想状態で眠りに入って行くのだ。
夢の中で、内在する高次意識から行動のヒントを得ようと……。


ある夜、絶壁をよじ登っている夢を見ていた。

高さが増すにつれて膝が震えたが、
すぐさま足場が見つかり、小休止できることが不思議だった。

ふと、岩肌に目を凝らして仰天した。
それら全てが鉱物の結晶で、乳白色やエメラルドグリーン、
あるいはサファイアブルーの輝きを放っていたからだ。

『ははぁ、ここに違いない!…』

そう思った瞬間、身体は頂上に移動して、
眼前の光景に目を奪われていた。
探していた天空の湖が横たわっていたのだ。

穏やかな陽の光に輝く湖面は鏡のように透明で、
生い茂る水草や、群れ泳ぐ魚たちがはっきりと見えた。
だが、足を踏み出そうとしてギョッとした。
湖は、足元にある断崖絶壁の下に広がっていたのだ。

一瞬にして、視界は拡張していた。
花々の咲き乱れる湖畔が広い裾野をもった岩山に続き、
岩山の頂上からは、うっすらと白煙が立ち上っているではないか。
その、絵画的な風景に圧倒されていた。

湖底の、ズームアップされたような光景は何だったのだろう。
そう思わずにはいられなかった。
すると、不可解さゆえの好奇心が生まれ、
視覚的な絶壁の恐怖が和らぐのを感じた。

(夢の中で、私は断崖を降りようと身構えていた。
自らの観念が創りあげた恐怖に、向かい合っていたわけだ)

そのとき、湖面に翼のような影が映り込んだ。
大鷲でも飛んでいるのだろうかと空を見上げ、唖然とした。
なんと、天使の群れではないか……。
しかも、すぐさま天使のうちの一人が話しかけてきた。
といってもテレパシーで、だ。

「もしかして、湖にいきたいの?」 

白人の天使が、親近感のある物言いをした。

「えっ! ……行きた~い」 

期待に胸が躍った。

「お安い御用よ。では、これに掴まりなさい」 

天使は人差し指と親指でリングを作って差し出した。
苦笑せずにはいられなかった。

「そんなあ、無理やわ。私、ただでさえブタで……」 

そう言いかけて、すぐに後悔した。
相手は天使だというのに、
三次元的な観念に囚われている自分が恥かしかったのだ。

「大丈夫、信じなさい……それがすべてだから」

天使が応えた。

「ごめんね。私って、ほんとにバカで……」

そう言いながら人差し指を絡めるや否や、
私は軽々と空に舞い、蝶のように湖面に降り立っていた。

「ありがとう、帰りは……」

「心配しないで、あなたが必要だと思えば現れるのだから……」

会話が交差したとき、天使はすでに群れの後を追っていた。


気がつくと、私は湖底を遊泳していた。
水中で呼吸することさえ不思議だとは思わなかった。
もう、なんでもありなんだ、という心境になっていたのだ。

(魚だって、透明に見えると信じれば見えたりなんかして……)
そう思っただけで、骨だけで泳ぐ魚たちの姿が見えた。

(だったら、骨まで透明になったら?……)
そう思った。
すると、私は何もない空間に浮かんでいた。
誘導瞑想で体験したオレンジの世界ではなく、
永遠に続く、360度に広がる透明な空間だった。
全ては『無』にも関わらず、自分の意識だけが存在していた。

この、意識だけの自分は何なのか……。
それを考えようとしたとき、突如として別の意識が囁きかけた。

「これが真実……。本当は、何もない。
あなた方が現実を創り、見たいものを見るということだ」



電撃を受けたように飛び起き、私は長い間、呆然としていた。
鮮やかな色も、声も、その夢のリアルさに圧倒されていたのだ。

高鳴る胸を鎮めようと、タバコに火をつけて時計を見た。
午前2時だった。
多幸感が押し寄せ、微笑まずにはいられなかった。

この夢で『信じる』という意味、状態を確信した。
今生的な道徳や、倫理観に支配されるのではなく、
自らの魂が願っている道を選択すること。
そして、それを信じることだ。



エッセイ・随筆ランキングへ

WHAT'S NEW?