賢者のささやき

 14, 2015 17:10
あぶな~い、誰にも言えない! σ(◎◎;)


タイ人の恋人と、2年ぶりに再会した。

だが、実家での歓迎会にはじまり、彼の恩師や旧友を訪ねる日々の中で、
花嫁としての自分に疑問を感じはじめていた。
タイではエリートの彼だけに、花嫁志願者も引く手数多だと感じ、
恋愛感情だけに依存している自分が空恐ろしくなったのだ。

言葉を修得したとしても、タイ社会の身分制度や、
しきたりに順応して暮らせるだろうか。
微妙な言葉の行き違いに苦しむことなく、
互いが良き理解者になれるものだろうか。
一般常識はもとより、教養や知性、技術やコネクションなどの全てに対して、
ここでは赤子のように、無知で無力な自分を感じるばかりだった。

「ねぇ、……タノンにとって、わたしは絶対的に必要な相手?」 

実家でくつろいでいたとき、奇妙な質問をしてみた。 

「どういう意味? 愛してること、イコール、必要の一部じゃないの」 

しばらくわたしを見つめ、ゆっくりと瞬きしながら彼が言った。
大きな瞳が長い睫の中で輝きを失ったように見えた。 

「もちろん。だからこそ聞きたいんだけど……。
なにがなんでも、わたしでないとだめ? って聞かれたら、
タノンはどう答える?」 

謎かけ問答など、理解できないと知りながら聞いた。
彼の情熱の強さを確かめなければ、勇気が萎えてしまいそうだった。 

「風子でないとダメかって聞かれたら、答えは違うかもしれないね。
僕の場合、結婚相手に困ることはないと思う。
けど、風子を愛してるから、結婚したいと思うのは自然な気持ち。
ただ、僕たちの結婚には少し問題あるね。言葉や生活習慣……。
う~む、意地悪な質問ね」 

タノンは、笑いながらギブアップポーズをとった。
わたしは自らの軽率さに腹が立ち、泣きたい気分になっていた。
誠実な彼の性格を愛していながら、花嫁として自信がなくなると、
相手の情熱に賭けようとしたからだ。


話題を変えるように、タノンが本棚のアルバムを開いてわたしを呼び寄せた。

セピア色に変色した彼の子供時代の写真はともかく、
叔父や、叔母、従兄、友人たちには正直、親近感はなかった。
見ず知らずの異邦人たちを眺めているようで、気が入らないのだ。

そのとき、奇妙なことが起きた。

「あなたは判断するために来た。全てを見て、味わって……」 

何者かが、わたしに囁きかけたのだ。
聞き終らないうちに、わたしは、声の主そのものになっていた。
しかも、アルバムを捲る一組の男女を見つめていたのだ。

意識は第三者のもので、数メートルの距離感さえあった。
この、わたしは誰なのか……?
そう思ったとたん、意識はアルバムを見る娘の中に戻っていた。

心臓が高鳴り、頭がくらくらした。
すると、機内での不可思議な出来事が頭をよぎった。
あのとき、同じように精神が肉体を離れた。
高度のせいだと思っていたのに。
あれは錯覚じゃなかったんだ。

もう、平常心ではいられなかった。

こんなことって、精神科にかかったら分裂病だと診断されるに違いない。
だが、わたしにとっては実感を伴った事実だ。
ショックのあまり心臓は高鳴り、冷や汗が滴り落ちたではないか。
そう…身体反応が物語るからには体験なんだ。
口が裂けても、決して誰にも話してはいけない。
人が……、いや! わたしという人間が、
肉体的な存在だけではないことを解明するまでは……。
漠然と、そんなことを思っていた。

「よその家のアルバム、退屈?」

タノンが、わたしの顔を覗き込んだ。

「えっ?……ううん。ちょっと、ぼうっとして……」

そう応えることで、わたしは我に返っていた。


日本に戻る機内で、私は物思いにふけった。

不可思議な感覚や、体験は久しぶりだった。
しかも国際結婚の下見旅行で、どうして離脱したのだろう。
慈愛に満ちた眼差しで小娘を傍観していた、あの、
もう一人の自分は何者なんだろう。
賢者の意識体? 
ハイヤーセルフ(高次の自分)?

それにしても、もう一人の自分の中にいるとき、
小娘の意識や、感情を感じないのはなぜだろう。

意識って、移動する粒子のようなものだろうか。
それも瞬間移動できる粒子。
それが意識の本質だとしたら、
SF映画のテレポ―ションも、あり得る世界観なわけだ。

ああ、危ない。
こんなこと、誰にも言えない。
結局のところ、その奇妙な体験をするための
旅行だったりして。 o(;△;)o




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