内気功

 15, 2015 06:17
オバさんの霊的冒険 (((o(^。^”)o)))


神秘体験の後、私は大幅に仕事量を減らした。

全国一位という、その業界での誉や、
課せられたノルマなどはどうでもよかった。
フルコミッションの営業職である。
成約が得られなければ、収入がなくなるだけのことだった。

時間をつくり、水泳やヨガなどを通して内なる自分に向かい合った。
出来事に一喜一憂する人生ではなく、
結果の原因である観念の改造にとりかかったというわけだ。

中でもヨガには強く惹かれた。
大勢でマントラを唱えるときの、
大自然と共鳴するような荘厳な響きに我を忘れた。

呼吸の頭文字は、吐く行為にも関わらず、
呼ぶという文字をあてがっている。
吐いて、吐いて、吐き尽くせば、
反動として大量の空気を吸う結果になることから、
古人は吐くではなく、呼び込むという意味の「呼」を採用したらしい。

呼吸法の実践は、意識して古い息を吐ききることから始まる。
ヨガの教えは、古いものを出さなければ新しいものを得られないという、
生き方の原点を説いていた。

切なさに似た孤独感は、払拭されていた。
だが、あのブルーの呼吸する球体……。
半強制的とも思えるバイク事故の意味とは何なのか。
私は神を脅迫でもするかのように、その答えを求めていた。 
神秘体験をしたことで、その世界にのめり込んでいたのだ。


通常のヨガ教室に飽きたらず、誘導瞑想の師を求めた。
すると三度目に、離脱した。

呼吸を調えるや否や、腹部から起こった電磁波のようなエネルギーが
背骨に沿って上昇し、無の境地に誘う教師の声が遠ざかった。

頭頂から何か大切なものが抜ける……。
そんな感じがした。
恐ろしくはなかった。
もう一度、光に遭いたいと切望していたからだ。

だが、そこはオレンジ色の空間に過ぎなかった。
わずかな濃淡こそあったが上下、左右、見渡す限り、
オレンジ色の世界だった。

ふと、自分を疑った。
視野が、360度あったからだ。

この、見ている部分は目なのか?
いや、目なら、後ろが見えるはずもない。
身体?……身体全体が目? 

冷や汗が流れた。
その汗を拭おうとして、さらに驚愕した。
汗が流れているはずの額はもちろん、
肉体そのものがないのだ。
光に遭遇したときは、赤子の身体があったのに……。

肉体がない……だが、意識はある。
それはどういうことなのか。
意識とは、幽体そのものなのか? 
だとしたら、座禅を組んでいるはずの私の肉体は何なのか。
意識の抜けた肉体が、座禅を続けられるものなのか。
この、意識の目のような、私の全体はなんなのか……。
突如として恐ろしくなった。

「先生! 先生! どうやったら帰れるんですか!」

反射的に叫んでいた。

「身体、身体と思いなさい!」

どこか遠いところで、先生の声がした。

 (からだ、からだ!) 
そう念じた瞬間、私は肉体の中に戻っていた。
だが、物の配置が奇妙だった。
背を向けているはずの家具や壁の一部が視界に入り、
向かい合った先生が異様に小さく見えた。
目が、望遠レンズのようになっていたのだ。

「アッ、見ないで!……」

先生が視線を逸らして叫んだ。
私の何かに誘発されて、空間が歪んで見えたらしい。

空間が歪む?
それってホーキング博士の宇宙論だよ。
そっかぁ! 小難しい数式に頼らなくても、
幽体になれば時空を超えられる、ってわけだ。
……すごい!

その日、先生が指導を打ち切りたいと言い出した。
すでに教えることがないというのだ。
そうだろうなぁ……。
私は即座に納得した。

ふと思った。
物理学者が難解な方程式をひねり出しても、
それは知識であって体験ではない。
机上の空論か、はたまた仮説で終わる傾向が強い。

一方、私のような者が不思議体験をしたとしても、
それを裏付ける方程式でもなければ、証明のしようがない。

だとしたら、ホーキング博士あたりに、
ぜひ離脱体験をしてもらいたい。
物理学者の視点なら、
トリップの最中にだって数式が閃く。
しかも、宇宙物理学の第一人者となれば、
精神を疑われることもなかろう。

とはいえ、360度の視界で“意識の目”として存在した理由について、
何度、自問自答したことだろう。

タイに向かう飛行機の中で、
さらにタイの田舎屋で、
バイク事故の一瞬前に、
いずれも“無我の境地”だったわけではない。
それでも意識は、瞬時に肉体を離れた。

だからといって、何億光年の宇宙を巡ったわけでもなく、
ただ、オレンジ色の異次元に浮かんで驚愕しただけのこと……。

『わかりました! ここまで、なんですね!
答えは外にではなく、自らの内に……そういうことなんでしょう?』
私は、何者かに宣言した。



誘導瞑想の師がギブアップした後、
肉体を浮遊させ、
雲を動かす大先生とやらを紹介された。
しかし、セッション料10000円/1時間の大先生は、
終始、私と目線を合わさなかったばかりか、
ネガティブな波動に満ちていていた。

パワーはあっても、闇の存在はすぐにそれと判る。
理屈ではなく感じるのだが……。
波動が闘争的で陰鬱な場合、
決まって胸が苦しくなり吐き気を覚える。
場所や、書籍も同じだ。
だから、その大先生に向かって念を送った。

私は超能力を求めているわけじゃない。
そのピリピリとした荒い波動をなんとかしろよ!
浮遊し、雲を動かしたからってなんなの? 
そんなもん売り物にするようでは、
いつまでたっても、
次元は上昇しないぜ! (●`ε´●)




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