デジャ・ビュ

 13, 2015 14:18
ふつうのオバさんが 8歳の頃に体験したこと

「母ちゃん、神山のおばちゃんが来るで!」 

トマト畑の草をひきながら、私は眉間に映る情景を言葉にした。

「ヨォ~、こんな子わやのぉ、なに言うがや」

母は呆れるように私を見たが、汗を拭うと再び草を引き始めた。

「ええバカんのぉ……足の悪い小母ちゃんが、こがいな山まで来るわけないやろ!」 

母の反応では足らないとばかりに、姉がなじるように言った。
一人暮らしの神山に頼まれ、夜間の伽として寝泊りしていた姉だけに、
私はバツの悪い思いで草取りを再開した。

「上野さぁ~ん」 

息を切らして、神山が坂道を登ってきたのは数分後のことだ。
その表情や声のトーン、歩き方の全てが眉間に浮かんだ映像そのものだった。
しかし、単なる偶然とでも思ったのだろう。
母や姉は、そしらぬ顔で神山に歩み寄っていった。



それから間もなく、
近所の遊び仲間と冒険ごっこをすることになった。

山奥に分け入り、草の生い茂る獣道を2時間ほど歩くと、
急な斜面に行く手を遮られた。
左右は藪に覆われていたが、
斜面は木々に絡まる蔦を頼りに登れそうだった。

「どがいする。ここ登って上の方まで探検しに行くんか」 

リーダーの三喜男が不安げに言った。 

「なんか怖そうやな、登っても行き止まりかもしれんがやろ。
ほんなら、今のうちに引き返したほうが……」

同級生の一郎がいい終わらないうちに、
眉間に鮮明な映像が浮かび上がった。

「行き止まりやないで!…上まで行ったら平らになっとるけんな、
遊べるがぜ。そこの赤土で十円玉磨いたらピッカピカになるがよ。
ほいてな、洞窟に続いた緑のトンネルと、蔦のブランコがあるがぜ。
早よ、行こや!」

そういい切ると、私は真っ先に斜面を登りはじめていた。

「あいつ、前に来たことあるがに、知らん顔してな!」

「ほやけんど、さっきまで初めての道や言うてたで」

仲間は口々にはやし立ててはいたが、登りきると一斉に歓声を上げた。
私が説明したとおりの光景が広がっていたからだ。

その夜、私は考え込んでしまった。
仲間にはすっかり忘れていて…と釈明したが、記憶がよみがえらないのだ。
それが体験したことなら、いつ、誰と、何のために、など、
記憶がつきまとっているはずなのだが……。



数週間ほど経った朝方、私はその場所で遊んでいる夢を見ていた。
不思議なことに、前にも同じ夢を見たという自覚を伴っていた。
(夢で来た場所だったんや! 早く帰って仲間に説明しよう) 

そう思った瞬間、どこからともなく彼らが現れ、テレパシーの会話をした。

「なーんや。おかしい思たら、夢で知っとったんか、
早よ言うたらええがに…」

「あのときは思い出せんかったがよ。
ほやけんど、良かったわぁ。信じてくれて…」

「ごめんな。疑って……」

隠し立てのない心のやりとりが、同時進行で瞬時に伝わった。

「いつも、誰とでも、こんなふうに解かり合えたらええがになぁ」

声を出して感動を伝えようとしたとき、私は眠りから覚めた。



この予知夢や、デジャ・ビュのような感覚は、
30代半ばまで続いた。

目を開けているときは
額がスクリーンのようになるのだが、
眼前の風景に重なっていても、
より鮮明な映像として見られることが
不思議だった。

子供ながらに残念だったのは、
その映像から得られる情報が、
とりたてて意味のない
できごとばかりだったことだ。

災害や人身の危険を察知するような
劇的な内容ではなく、
近未来に起こる些細な出来事ばかりで、
ヨガや、ア-ユルベーダー、経穴などを学んだのち、
スクリーンが出現する場所は、
第六のチャクラであり、
『第三の目』でもあり、
経穴では『印堂』だと知った。

解剖実習の最中、私は蝶形骨の美しさに涙した。
それは中央にくぼみのあるカーブを設けていて、
左右に翼を広げたような繊細な形をしていた。
くぼみは、宇宙とつながるといわれる
脳下垂体を乗せるための玉座を思わせた。

東洋医学を学び、七つのチャクラが西洋医学の
神経叢(そう)に対応していることをつきとめた。
叢(そう)とは、草むらのことで、
神経が密集している場所のことをいう。
瞑想するときにパルス(振動のようなもの)が
沸き起こるポイントでもあった。

『先生、教科書に書いてないんですけど、
尾骨の先端にある尾小体って、
どんな働きをしているんですか?』
ある日の授業中、
大阪大学の解剖学教授にたずねた。

『なんらかのホルモンを分泌しているらしいけど、
まだ解明されてないんだよ』

『ですか……。
トリップするとき、ここが振動の起点なんですよ。
第一のチャクラ、なぁ~んちゃって……。
先生、ご存じ?』

『……???』

私は、そうやって、よく先生方と遊んだ。
なにしろ42歳の知オバちゃん相手だから、
阪大の教授も、偉ぶってばかりは
いられかったようだ。




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