猫に学んだ『治る力』⑤

 19, 2015 12:54
薬に頼ることなく、ミィーヤは、
絶食という猫流の治療法で病気を克服していった。

アンドリュー・ワイル博士の言うとおりだ。
たまりかねて病院に連れて行った、そのときが、
まさに症状はピークだったのだろう。
そのピークを境に、症状は回復の兆を見せていた。

この貴重な経験から、新たな感染病に対しても、
ミィーヤ自身の治癒力を信じることにした。

症状のピークを乗り越え、寝ついてから5日目の朝のことだ。
ミィーヤはしっかりとした足取りで水を飲み、
美味しそうに缶詰を食べた。
しかも、早々と外に出たがるではないか。

その後も、ミィーヤは外遊びに夢中だ。
出かけて行っては傷つき、傷ついては、絶食と、
なめまわし療法で免疫力を増大させていった。

すっかり逞しくなったミィーヤの冒険は、止むことを知らない。
早朝から外に出たがり、出社時間の迫る私をハラハラさせた。
そこで、妥協案を思いつく。
天気のいい日には餌と水をベランダに置き、
自由に遊ばせてやることにした。

おかげで、見て見ぬふりをしてくれた管理人から、
よその猫に子を孕ませたとレッテルを貼られもした。

「それはないよ。避妊手術してるし…」
とは思ったが、あえて反論はしなかった。
管理人夫婦が大の動物好きだと知っていたし、
実際、彼らのまなざしが優しかったからだ。


今や、私とミィーヤの信頼関係は完璧だ。
夏にはセミやトカゲを、あるときはスズメまで捕ってきて
得意げに披露する。
トイレから出てくる私を待ってでも、獲物を献上しようとする。
それが愛の行為だと、何かの本で読んだことがある。

久しぶりではあるが、今日もミィーヤは、
押入れの定位置で、打ちひしがれたように横たわっている。

自分の2倍はあろうかという野良猫を相手に争い、
勢いあまって、防犯用の鉄条網に身体を巻き込んだようだ。
棘のある針金の中で暴れたため、体中に無数の傷を負った。
しかも、その傷が化膿して、過去のどんな戦いよりも
残酷な痛手を負ってしまった。

もう4日目になるが、もちろん、絶食状態だ。
それでも排尿のために、身体を引きずるようにしながら、
律儀に猫用のトイレで用を足す。

そんなとき、私がしてやることといえば、
「よしよし、頑張りやぁ。もうすぐ治るから」
ただ優しく頭をなでて励ますだけの、メンタル療法だ。

ミィーヤにしても、人間の判断で自律神経を乱されるより、
優しく愛撫されることを望んでいる。

なぜ解かるかだって? 
簡単だ。
そんなとき、ミィーヤの表情は幸せに満ちていて、
私の手を舐めながら、甘えた声で「ニャーン」と鳴くからだ。

ふと、思う。
ミィーヤが猫ではなく、自分の子供だったらどうだろう。
自然治癒力に任せて、メンタル療法に賭けただろうか?

そんなこと……。できるわけがなかろう。
うろたえて、平身低頭、医者にすがっているに違いない。

ミィーヤ、ゴメン……。
だからって、たかがペットだなんて思ってないよ。
ただ、人間の子供は狂暴でもないし威嚇もしないからね。
ミィーヤにしたように、迷わず病院に連れて行く。
だいいち、病院に行ったからって、
信頼関係が崩壊することもないんだよなぁ。


長文エッセイを読んでいただき、ありがとうございました!

さて、ここから先は志向を変えて……
『今どきのスピチュアル観察』というカテゴリーで
オバちゃんなりの思い、想いをつづります。

皆さんからのコメントをお待ちし、
できるだけ丁寧に返信したいと思っています。(●⌒∇⌒●)



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猫に学んだ『治る力』④

 19, 2015 12:45
ミィーヤが2歳の頃の話である。

日増しに食欲をなくしていく彼を案じ、
動物病院に連れて行った。

もともと臆病で、チャイムが鳴っただけで
押入れに突進していたミィーヤである。
ペット籠に入れられ、町の喧騒に曝されたショックから、
狂ったように暴れだしたのだった。

その声は、野獣の絶叫以外のなにものでもなく、
通りがかりの人が、何度も振り返ったほどだ。


やっとの思いで動物病院に着いたものの、
診察台のミイーヤはさらに凶暴になり、
血管が切れんばかりの絶叫と、威嚇を繰り返す。

私を含め、助手と三人がかりで押さえつけ、
獣医は、恐る恐る診察にとりかかった。
といっても、ミィーヤの目をチラッと見ただけだ。
それだけで、獣医は膀胱炎という診断を下した。
問診を含めて、診断と注射は、ものの3分で終わった。

診断は、腑に落ちなかった。
だが、ミィーヤの神経がもたないような気がして、
早々と退散することにした。


処方された薬を飲まそうと、あらゆる方法を試みたが、
ミィーヤの怒りは尋常ではなかった。
手を近づけるだけで、私への不信感をあらわにして、
火がついたように威嚇するのだ。

私は、悲しくてたまらなかった。
初めての動物病院。それも身を案じての行動が、
たがいに繋がっていた2年の月日を消滅させたのだ。


ミィーヤは、生後2、3週間で私に拾われた。
猫の寿命を思えば「3つ子の魂」に相当する月数であろう。
もし、その2、3週間に虐待を体験していたとしたら……。
私は、そんなことまで考えていた。

病院での治療行為は、彼の記憶に虐待のフラッシュバックを
起こさせたかもしれない……。
そう思った瞬間、私は、わざわざミィーヤに見える場所で
薬をゴミ箱に捨ててみた。

するとどうだろう。
彼の目つきが変わり、落ち着きを取り戻したではないか。
                  
       つづく (@^^)/~~~


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猫に学んだ『治る力』③

 19, 2015 12:41
新しい環境で3週間ほど経ったある朝、
木々の間でさえずる小鳥たちの魅惑的な動きや、
野良猫の泣き声に耳を澄ましたかと思うと、
ミィーヤは意を決したかのように、
鉄格子を越えて外界にデビューを果した。

「やった!……バンザーイ!」 
思わず拍手喝采。
私は心から、ミィーヤの冒険を応援したものだ。


それからというもの、ミィーヤはがぜん本能に目覚めたらしく、
朝帰りもしばしばの不良猫になった。

ノミの持ち帰りはもちろん、
野良猫との格闘を物語る生傷の絶え間はなかったが、
その満足そうな顔を見ることが喜びとなった。
自分の都合で猫の自由を奪った罪悪感から、
解放されたような気がしたものだ。


しかし、ミィーヤの冒険には大きな代償が待っていた。

数日後のことである。
仕事から帰ると、ミィーヤが力なく横たわっていた。
手足は恐ろしいほどに腫れあがり、
餌はもとより、水さえも飲もうとしないのだ。

どうやら、傷口からよからぬ菌に感染したようだった。
マンションの隔離されたような暮らしで、
雑菌に対する免疫力が欠落していたのかもしれない。

次の日も、また次の日も、ミィーヤは飲み食いを断って、
ひたすら眠り続けた。

さすがに4日目ともなると身体は見る影もなく痩せこけ、
鼻先はカラカラに乾いて、死んでしまいそうに見えた。
それでも私は、彼を動物病院に運ぼうとはしなかった。
動揺はしていたが、苦い経験を教訓に、ミィーヤ自身の
生きようとする力を信じて祈り続けた。
                    
               つづく (@^^)/~~~




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猫に学んだ『治る力』 ②

 19, 2015 12:38
四国の小さな漁村で生まれ育った私にとって、
猫は、同居人のような存在だった。
自由、気ままに徘徊し、日向ぼっこに明け暮れる彼らを、
村人の誰もが愛していたように思う。
ネズミから大切な穀物を守ってくれたし、
年寄りや子供にとっては、格好の伽だったからだ。

そんな体験から、
都会ではペットを飼う気がしなかった。

猫なら、木登りの醍醐味を味あわせてやりたい。
犬なら走り回ることが命だろう、と、思っていた。
自分なら、鎖に繋がれた人生などまっぴらごめんだ。
食住の保障などなくても、
外界に飛び出して命を燃やしたいと思うタイプなのだ。


休日になり、ベランダ側の窓を開け放してやった。

壁面にあるクーラーの室外機を足場にして、
防犯用の鉄格子まで身体を伸ばし、
ミィーヤが、恐る恐る辺りのようすを伺う。
好奇心に煽られ、飛びだしそうに身がまえた瞬間、
とっさに頭を引っ込めた。
散歩に出かける犬の姿が見えたのだ。

犬は、ミィーヤにとって脅威のようだった。
だが、しばらくして再び頭を突き出すと、
全身の毛を逆立てて威嚇するではないか。

オオ、やるもんだ、などと感心しているうちに、
『ワン、ワン!』……犬が吠えた。
もちろん、ミィーヤに向かって吠えたのではない。

しかし、よほどのショックだったのだろう、
犬のひと吠えを聞くやいなや、
ミィーヤは、押入れの奥に突進した。

かといって、逃げ場を確かめると安心するのだろう、
窓があいている限りは、俗世間を見物する魅力に引き戻される。

中でも、猫たちの鳴き声には格別の反応を見せた。
部屋のどこにいようが素早く窓際に駆け寄り、
私に、哀願するような熱い視線を向けるのだ。

だが、決して鳴き声を出さない。
どうやら相手に気づかれないよう、
こっそりと観察したいらしい。

窓を開けてやると、
人の胸の高さまである壁を上り、
鉄格子の間から恐る恐る目を出す。
で、決まって……そのまま固まってしまう。
その姿勢と表情の奇怪さ、ユニークさは想像を絶する。

猫は、頭の皮を後に引き寄せることで、
後頭部に耳を貼りつけることができるらしい。
すると、顔の中ほどに位置していたはずの目が、
頭の先端から飛び出しているように見える。

これは何だ! 新種の猫? いや、カワウソに変身?
などと、度肝を抜かれること請け合いである。
                 
         つづく (@^^)/~~~



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猫に学んだ『治る力』 ①

 19, 2015 12:35
これはアンドリュー・ワイル博士に心酔していた当時、
その代表作とも言える『治る力』を、
野良猫のミィーヤを通して教えられた物語です。
長文ですので①~⑤にまたがります!   




マンションの7階で育った猫のミィーヤは、
主の引っ越しを機に、初めて俗界を知ることになった。
転居先は、木々の緑に囲まれたマンションの1階で、
中庭に面したベランダからは小鳥の群れや、
犬を連れた人間、野良猫たちの往来が見えた。

それまでミィーヤが人間以外に見たものといえば、
ベランダに飛来した鳩くらいのもので、
彼にとっては、カルチャーショックの日々が始まった。


ミィーヤとのつき合いは、3年前の夜更けにはじまる。

わが家のあるマンションに近い路上で、
震えながらうずくまっていた。
今にも倒れそうになる身体を懸命に支え、
ミャア、ミャアと、母を呼ぶ姿が憐れでならなかった。

思わず拾い上げたものの、片手に隠れるほど小さく、
見るからに衰弱していて、助かるかどうかもわからなかった。
だが、見捨てるわけにはいかなかった。

家に着き、砂糖入りの牛乳を与えてみた。
すると、ペロペロと舐めるではないか。
嬉しくなった私は、シラミだらけの身体と、
脂でふさがった目を洗い、毛を乾かして毛布にくるみ、
添い寝して、頭をさすり続けたものだ。

以来、ミィーヤは、地上20mに住む箱入りペットとなった。
もっとも、ミィー、ミィーと泣く声を呼び名にしたほどだから、
蝶よ、花よ、と可愛がったわけではない。

その頃の私は、超多忙な日々を送っていた。
仕事と、鍼灸の専門学校生をこなしていて、
家にいるのは、深夜から早朝に限られていたからだ。

遊んでやる暇もない主に拾われ、
その境遇が幸か不幸か、比較する世界を知らないまま、
ミィーヤは純真無垢に生きてきたのだ。

そんなミィーヤだけに、
マンションの1階に越してからというもの、
連日、窓から身を乗り出して外界に見入っていた。
私としては、それだけで幸せな気分になったものだ。


「休みの日は外に出して、自由を満喫させてやろう……」
都会ではルール違反だとわかっていながら、
私は、そんなことまで企んでいた。
                 
               つづく(@^^)/~~~


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